世界の軍事費1年分でできること

2022年2月からはじまったロシアのウクライナへの軍事侵攻により、多くの子どもたちや民間人が今もなお脅威にさらされています。ユニセフでは、長期を見据えた支援計画を発表し、国際社会に約9億4900万ドル(約1186億円)※1の支援を求めています。その一方で、ロシアの軍事費は、兵器の損失などを含むと1日あたり200億ドル※2(約2兆6000億円)とも言われ、日々膨大な軍事費が使われています。

 

世界の軍事費はどのくらい?

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、2021年の世界の軍事費が2兆1130億ドル(約271兆6472億円)※3で、過去最高額となったことを発表しました。軍事費とは、国防費とも言われ、戦争が起きていない時は軍の維持費として使われ、戦争が起こると戦費として使われています。軍の人件費、兵器の調達や維持経費などが含まれますが、各国によって予算上の分類などは異なるようです。日本の場合は、自衛隊による有事の際の災害派遣なども含まれるため、必ずしもすべてが戦争や軍事政策に関わる費用というわけではありませんが、圧倒的に軍備の強化や維持に充てられている費用が多いのも事実です。昨今の国際情勢の緊張の高まりを背景に、軍備を増強する国が増えたことにより世界の軍事費は増加の一途を辿っています。ロシアの軍事侵攻に使用されている戦車を製造するのに1億数千万円、新型だと4億数千万円※4の費用がかかっているとの見方が示されており、ミサイルや戦闘機などの兵器を合わせると兆単位の軍事費が使われています。

 

世界では、こんなにもたくさんの軍事費が使われているなんて知らなかった。
驚きだよね。もし軍事費を世界の人たちの安全な暮らしや幸せのために使ったらどうなるか考えてみよう!

 

 

世界の軍事費1年分でできること

 

世界の飢えや栄養失調など貧困をなくす 年間2650億ドル

2015年に発表された国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、飢えや栄養失調など貧困を永久に根絶するためのコストは、毎年2650億ドルを15年間必要※5との見解を出しています。これは、世界の1年間の軍事費の約13%※6にあたります。決して不可能ではないように思える数字です。ユニセフの2020年の総支援額は、75億4800万ドル※7となっており、いかに世界のお金が軍事費に使われているかがわかります。

 

低所得国が抱える債務負担 年間8600億ドル

ユニセフの報告書によると、世界の8カ国のうち1カ国は、社会サービスよりも債務に多くの費用を費やしており※8、低所得国が抱える債務負担の問題が深刻になっています。世界の低所得国が抱える債務負担は、新型コロナウィルスの影響もあり、2020年に12%増え過去最高の8600億ドル※9に上りました。結果、負債を抱える国々では、子どもたちの保護や教育、社会保障、保健衛生に関わる予算が縮小されるという事態が起きています。ユニセフでは、国際機関や債権者、各国政府が協力して債務負担を軽減し、持続可能な復興を目指していくことを呼びかけています。

 

低・中所得国のエイズ対策 年間290億ドル

国連合同エイズ計画(UNAIDS)では、エイズ終結に向けた低・中 所得国のHIV対策に必要な2025年までの資金額は、年間290億ドル※10と見積もっています。2025年エイズターゲットを達成すれば、HIVに関わるサービスを必要とする人たちの95%に提供でき、2020年の新規HIV感染者は150万人から37万人未満に減少します。また、エイズ関連の死亡者も年間69万人から25万人未満に減らせるとの見方を示しています※11。

 

1年分の軍事費で全部できてしまうね。
世界の国々が軍事費の1割と少しを国際支援に毎年充てるだけでも、飢えや貧困に苦しむ8億1100万人※12を救うことができるという計算なんだ。

 

学校に行けない2億6200万人の子どもの教育、医療サービス提供で330万人の命を救う 4000億ドル

オックスファム・インターナショナルによると、世界人口のうち最も裕福な上位1%の資産に0.5%課税すれば、年4000億ドル(約44兆円)余りが集まり、学校に行けない2億6200万人の子どもの教育に加え、医療サービス提供で330万人の命を救うことができる※13と表明しています。この費用を上記の3つに加えても世界の軍事費1年分があれば、すべて実行することができます。また、新型コロナウィルス感染症による医療費の増加や景気の後退により、教育予算の削減をせざるを得ない国があり、世界では学校に通えない子どもたちが増えています。Save the Childrenの報告書によると、最貧国で生活する1億3600万人の子どもたちが安全に復学するために、500億ドル(約5兆1879億円)※14の支援が必要と言われています。

 

 

軍事費を教育費へ!コスタリカの取り組み

 

軍事費を子どもたちのために使えたら良いのにな。
実は、それを実現した国があるんだよ!

 

2021年の『地球幸福度指数(HPI)』ランキングで1位※15となった中米の小さな幸せの国コスタリカ。1984年の内戦によって多くの人が命を落としたことをきっかけに軍隊を廃止しました。コスタリカは軍事予算をゼロにしたことで、それまでに国家予算の3割を軍事に投じていたところを教育や医療、環境保全のために使い平和国家を築いてきた国です。「兵士よりも多くの教師を」をスローガンに、幼稚園から高校までの教育費を無料にしました。識字率が98%※16と教育水準の高さがうかがえます。また、コスタリカは地球上で確認されている全生物のおよそ5%、約95000種が生息している生物多様性の豊かな国としても有名です。環境政策にも力を入れており、国のほぼすべての電力を再生エネルギーでまかなっています。近年の景気の悪化、移民の増加により財政再建に迫られている一方で、いち早く軍隊を廃止し、軍事予算を社会福祉に充て、国民や地球環境にとっての『幸せ』のために歩み出したコスタリカの選択は、国際情勢の緊張が高まる世界において、本質的で重要な国家の在り方と言えるのではないでしょうか。

 

 

世界のすべての人が幸せに生きるために

『世界一貧しい大統領』として親しまれ、世界中から愛される南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領の来日スピーチに、次の一節があります。

 

現在、私たちは多くの富を抱え科学は発展し医術も進歩している時代に生きています。こういった時代にあり私たちがしなければならない大切な問題は、「では私たちは今、幸せに生きているのか?」。もちろん、一つの側面では非常に素晴らしい効果がもたらされました。たとえば、150年前に比べると私たちの寿命は、40年長くなっています。一方、私たちは軍事費に毎分200万ドルを使っています。

 

私たちにとり、命ほど大切なものはありません。それは生をもったすべての人の人生が大切ということです。世界について考えることも、人生について考えることも、あるいは貿易、仕事について考えるときも、「どうやったら幸せになるか」から考えなければならない。

 

【引用】「目指すは小さな世界」世界一貧しい大統領ホセ・ムヒカ氏の言葉(後編)2016年4月14日https://www.kanaloco.jp/news/life/entry-74340.html

 

世の中がどんどん便利になったり、発展しているけど、自分の国だけではなくて、世界中の人たちが幸せになる選択をしていく必要があるね。
そうだね!武器をいくらつくっても、戦争をしても幸せになる人は増えないよね。もし、その分を世界の子どもたちや誰かのために分かち合えたら、世界中の人が飢えることなく、安全に幸せに生きられるだけの十分な食糧やその生活のために必要なお金が地球にはあるんだ。

 

世界の軍事費は、2022年現在では、1分間に400万ドル※17(2022年6月時点で約5億2000万円)使われています。私たち人類は、「私たちは今、幸せに生きているのか?」その問いを今一度考え、生き方を見直す分岐点にきているのかもしれません。世界の国々が力を合わせ、世界中の子どもたちやすべての命の『幸せ』のために舵をきることに地球の未来がかかっています。

 

 


※1【出典】「Ukraine and Refugee Outflow Appeal」UNICEF
https://www.unicef.org/appeals/ukraine
※2【出典】Consultancy Europe
https://www.consultancy.eu/news/amp/7433/research-ukraine-war-costs-russian-military-20-billion-per-day
※3【出典】「Trends in World Military Expenditure, 2021」ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)
https://www.sipri.org/publications/2022/sipri-fact-sheets/trends-world-military-expenditure-2021
※4【出典】MBS NEWS (220404)
https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2022/04/088402.shtml#:~:text=%E4%BE%B5%E6%94%BB%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E5%81%B4,%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%82%92%E5%88%86%E6%9E%90%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
※5【出典】FAO, IFAD and WFP. 2015. Achieving Zero Hunger: the critical role of investments in social protection and agriculture. Rome, FAO.
https://www.fao.org/3/i4951e/i4951e.pdf
※6上記のデータは※3※5のデータを元に計算
※7【出典】Responding to COVID-19: UNICEF Annual Report 2020. New York: United Nations Children’s Fund (UNICEF), 2020.
https://www.unicef.org/reports/unicef-annual-report-2020
※8【出典】UNICEF,(2021). COVID-19 and the Looming Debt Crisis: Protecting and Transforming Social Spending for Inclusive Recoveries, Innocenti Research Report no. 01,
https://www.unicef-irc.org/publications/pdf/Social-spending-series_COVID-19-and-the-looming-debt-crisis.pdf
※9【出典】“World Bank. 2021. International Debt Statistics 2022. Washington, DC: World Bank. © World Bank.
https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/36289 License: CC BY 3.0 IGO.”
※10※11【出典】UNAIDS.2021.GROBAL COMMITMENTS,LOCAL ACTION
https://api-net.jfap.or.jp/status/world/pdf/global-commitments-local-action_jp.pdf
※12【出典】FAO, IFAD, UNICEF, WFP and WHO. 2021. The State of Food Security and Nutrition in the World 2021. Transforming food systems for food security, improved nutrition and affordable healthy diets for all. Rome, FAO.
https://www.fao.org/3/cb4474en/cb4474en.pdf
※13【出典】OXFAM International.2019.Public good orprivate wealth?
https://www.oxfam.org/en/research/public-good-or-private-wealth
※14【出典】Save the Children
https://www.savethechildren.net/news/world%E2%80%99s-poorest-children-can-safely-go-back-school-if-leaders-invest-370-student#
※15【出典】Wellbeing Economy Alliance
https://weall.org/the-latest-happy-planet-index-costa-rica-tops-the-list-beating-western-economies-on-sustainable-wellbeing
※16【出典】コスタリカ共和国(Republic of Costa Rica)基礎データ(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/costarica/data.html#:~:text=%EF%BC%884%EF%BC%89%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AF%E3%80%811949,%E4%BD%93%E5%88%B6%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
※17上記のデータは※3のデータを元に計算


 

 

 

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